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真夜中のティータイム

気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。

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いや、考えでなかったのかもしれない。
それはたぶん本能だったのだろう。
剣を捨て、火のついた焚き木を“それ”の体に突き刺す。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
夜の沼に響く声!
さらに先ほどの壊れたランタンを投げつける。
ランタンが“それ”に当たり、砕ける。
そして飛び散った燃料に火がつき、“それ”は一気に燃え上がった。
“それ”が燃える火で、辺りは一気に明るくなる。
ジュル、ジュル、ジュツと音を立てて燃える、“それ”。
「や、やったかぁ」
だがまだ、“それ”の触手はふらふらと動いてる
「まだ致命傷ではないのか?」
そのとき、“それ”の体に変化が起きた。
その中心部に淡い光が溢れ、何かを形作っていく。
光は中心から五つの方向へ延び、やがて人間のような形になっていく。
このとき、アルトゥールにふと先ほど拾った指輪のことを思い出した。
そして、その指輪を光に投げつけた。
周囲が一面、明るい光に覆われる。
やがて光は天に向かって伸びていき、やがて消えていった。
まるで浄化されるように…。

翌朝は霧も晴れ、前日とはうって変わって天気のいい日だった。
沼から抜ける道も見つかり、アルトゥールは遂に湿地帯から抜け出した。
しばらく進むと、村が見えてきた。
食料と日常品の補給のため、雑貨屋と思われる店に入った。
食料を買い、店を出ようとしたとき、アルトゥールはふっと思い立ち、店主に聞いてみた。
「エリク、もしくはリアと言う名前に聞き覚えはないか?」
「どこでその名を」
アルトゥールは拾った指輪のことを話した。ただ闇の中の怪物のことだけは話さなかった。
「ああっ、知っているとも」
店主は言った。

「エリクとリアと言うのは、昔この村に住んでいた男と女だ。
ふたりは恋人で、将来を誓った仲だった。
二人は幸せな毎日を過ごしていたが、ある日、突然にその関係が崩れた。
原因となったのは、この村にふらりと現れた女だった。
その女はベリトと言い、美しい顔と派手な外見をしていた
まだ若く世間知らずだったエリクは、そんなベリトに一目惚れしてしまった。
やがて、当然のようにエリクはベリトと共に、この村を出て行ってしまった。
しかし時が経つにつれ、ベリトの美しい外見とは裏腹に、彼女の身持ちの悪さが分かっていく。
そして、当然のように二人に訪れた破局。
ベリトと別れたエリクは、失意のまま、この村に帰ってきた。
だが彼は村で、もうひとつの悲劇を知った。
彼が村を出た後、ひとり残されたリアが悲しみに暮れ、沼に身を投げたらしい。
エリクは後悔した。
自分の犯した取り返しのつかない愚かな過ちに。
そしてエリクは彼女を供養し、二度と村を離れることはなかった」

アルトゥールは考えた。
「…となると、あれは未だに怨みの炎を燃やすリアの霊だったのか。それともリアの悲しみの心に住み着いた悪霊だったのだろうか」
あのとき、指輪をかざしたことでリアは救われたのだろうか。
アルトゥールには分からなかった。
でもそう思いたかった。

「ところでエリクは今でも生きているのですか?」
「ああっ、生きているとも。あんたの目の前にな」

---「第1話:嘆きの沼の黒い影」:完---
「第2話:闇からの声 #1」へつづく

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