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真夜中のティータイム

気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。

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朝食が終わり、サラは世界樹に向かって出発した。
世界樹に向かうには、途中、迷いの森を通り抜けなければならない。
もっとも通り抜けると言っても中心部を通るわけでなく、ほんの少し脇を抜けるだけなのだ。
しかも子どものころから来ているので、道はよく知っている。
しかし、先ほどサラがおばあちゃんとの会話で一瞬言葉に詰まった訳は、この迷いの森のためだった。
実は山小屋の近くにある村で、ある噂話を聞いたのだ。
それは村のふたりの女性が話していた会話だった。

「ねぇ、ねぇ、聞いた、聞いた」
「何の話?」
「出るらしいのよ、迷いの森にこれが」
女は両の手を前に垂らした。
「幽霊、ってこと?」
女はそれを肯定するように肯いた。
「へぇ、それは初耳だけど」
「実を言うと、私もさっき聞いたばかりなんだけどね。でも、もう既に5~6人があってるらしいよ」
「幽霊に?」
「…って言うか、声に」
「声?……ですかぁ??」
「そうそう、声。姿は見えないらしいんだけど、夕暮れくらいに通りかかると声が聞こえるそうよ。だから、もし森に行くなら、陽があるうちに森を抜けたほうがいいよ」
「まぁ、森に行く用事なんて、ほとんどないけどね」
「ハハハ、確かにそうね」
サラは決して臆病者ではなかったし、この話も単に噂話に過ぎないだろう。
だが何か、不安に感じさせる何か、それは予感と言ってもいい何かがあったのだ。

森の中で鳥のさえずりが聞こえる。
サラは森の中をほぼ北へ真っ直ぐに歩いて行く。
やがて北へ向かう道とは別に、西へ曲がる道が見えてきた。
西へ曲がると、世界樹のほうへ行く。
サラはいったん足を止めて考えていたが、やがて決心したかのように西へ歩き出した。

しばらく歩くと視界が開け、目の前に大きな樹が見えてきた。
世界樹だ。
世界樹はその名の通り、大きな樹だ。
枝は天に届くほど高くそびえ、幹の太さは数人の男達が取り囲めるほど大きい。
根がどこまで伸びているのかは、想像もつかない。
世界樹と言う名前を誰が呼び始めたのか、それが本当の名前であるのか、サラは知らない。
しかしサラは子供の頃から、その樹を世界樹と呼ばれていた。
そして、側にいると心休まる暖かな樹だ。
まるで母親のように…。
サラはそんな世界樹が好きだった。
その世界樹が今日も暖かく、サラを出迎えてくれた。

しばらく世界樹を見ていたサラだったが、やがて「お使い、お使い」と近くにある薬草の側に座った。
そして呪文を唱えながら、薬草を取る。
これが昔からの習慣なのだ。
やがて必要な薬草を取り終えたサラは、ふっと息を吐いた。
そして立ち上がり、世界樹のほうへ歩いていた。
サラは世界樹の側に座り、頭を預ける。
流れる白い雲、透き通った青い空、遠くで聞こえる鳥の声。
心安らかで、心地よい時間が流れ行く。
サラはうとうとし始めた。

それから、どのくらいの時間がたっただろうか。
サラがふと目を醒ますと、陽が西に傾いていた。
「もう夕方だ。帰らないとおばちゃんが心配する」
サラは慌てて立ち上がり、森の中へ駆け出した。

「第2話:闇からの声 #3」へつづく

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