真夜中のティータイム
気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。
春の温かい風が吹く中、ひとりの旅人が森の中を歩いていた。
ここは、城壁都市と異名をとるキルキミーから、ワィックロウ山脈へ向かう途中の森の中。
小鳥たちの春を祝う声が、木々のささやく葉音が聞こえていた。
やがて、森の木の陰から木造りの少し大きめの小屋が見えてきた。
その小屋の入り口には看板が下がっており、そこには「春のそよ風」亭と書かれていた。
旅人はその中に入っていた。
小屋の中は酒場になっていた。
客は旅人のほかには、剣士らしき男が一人だけ。
その剣士らしき男は奥の席で、酒を飲んでいた。
更に店内を見渡すと、奥に階段があった。
どうやら2階が宿屋になっているらしい。
つまり酒場兼宿屋と言った作りになっているようだ。
「何になさいます」
この亭の主人と思われる初老の男が話しかけてきた。
髪のほとんどは白くなっているが、体はがっちりしていた。
もしかしたら、この男は昔剣士だったのかもしれない。
だが顔は温和で、人の良さそうな感じだった。
「お決まりになりましたらお呼びください」
その言葉にはっとなり、旅人は思わずエールを頼んでしまった。
「昼間から酒か」、旅人は苦笑する。
主人がエールを持ってきたときに、旅人は主人に話しかけた。
「実はここにくると、色々と面白い話を聞くことが出来ると聞いてきたんだが」
そうキルキミーはまだしも、ワィックロウ山脈に向かっても単に険しい山があるだけだし、その中でも最も高いドラゴンが棲むと言われる魔の山に近づこうとする者はまずいなかった。
つまり、ここは人があまりやってこない場所にあるわけだ。
そんな場所なのに、少ないとは言え絶えず客がいるのは、主人から聞く冒険談…これが理由だったのだ。
勿論、これらの話は主人が体験したものでなく、主人がこの亭を訪れた者から主人が聞いたものなのだが。
「別にそんなに知っている訳ではないですよ。で、どんな話が良いんですか?」
「どんな話でも構わないよ」
「そうでかぁ、では、ここからずっと西南に行ったところにある沼の話なんてどうでしょう」
「うん、それで良いよ」
「実は昔、この店を訪れた騎士から聞いた話なのですが、そこは嘆きの沼と呼ばれているらしいのです。その騎士が若い時、その嘆きの沼に足を踏み込んだときのことなんですが…」
(「第1話:嘆きの沼の黒い影 #1」につづく)