真夜中のティータイム
気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。
10年ほど積本になっていた(笑)「水妖(井上雅彦/廣済堂)」、読了。
本書は、水を題材にしたホラーアンソロジー。以下作品ごとにコメントする。
「水虎論(朝松健)」→天文庚子年。水無川庄と言う水の少ない場所があった。この地に綱門城と言う城が作られた。実はこの城主の守護神が水を嫌うため、この地が選ばれたのだ。ところがその直後、この地は未曾有の大雨に見舞われる。…これは面白い。冒頭からの異様な雰囲気、ラストの恐怖、何れも凄く、怪談、怪異談の傑作と言って良い。だがそれ以上に面白いのが、中盤、修験者たちによって交わされる「水虎論」。この部分は必見だ!★★★★★
「貯水槽(村田基)」→入居したアパートの水道の水の味がおかしい。おれは屋上にある貯水槽にいった。…なんとなく、「仄暗い水の底に」っぽい出だしだったので、「あれ?」と思っていたら、まったく違う意外な展開を見せた。中盤のサイコスリラーっぽい部分はあまり好きでないが、ラストのオチはすこぶる良い。★★★★☆
「すみだ川(加門七海)」→隅田川に伝わる2つの話。お使いのお金を落とした子が家に帰れず彷徨っていると、水の中から鐘の音が聞こえる。もうひとつは、男は我が子を殺した。アパートが蒸し暑かったから、子がギャアギャア泣くから。アパートを飛び出した男は闇の中から、女の声を聞く。…正統派怪談。二つ目はイマイチだが、、一つ目が怖い。そして、その恐怖の描写力が優れている。★★★☆☆
「水中のモーツァルト(田中文雄)」→映画のプロデューサーが、女優が現場に忘れた指輪と取りに戻ると。…田中文雄と言えば、「血を吸う」シリーズのプロデューサーとしても有名だが、たぶんこの作品は当時の状況を参考にして書いたのあろう。映画会社や女優の元ネタの見当がつくのが面白い。だが肝心の内容はまぁまぁのレベル。★★★☆☆
「濁流(岡本賢一)」→僕は小学校の頃、同級生の女の子を川に落として殺した。その事を催眠治療で思い出した。何故催眠治療をしたかと言うと、ここ最近、奇妙なことが起こっていたからだ。それは周りの人間が粉々になり、流れていくことだった。…先の展開が読めない面白さはあるが、怖くない。一種の不条理小説かもしれない。★★★☆☆
「水底(安土萌)」→水の底で眠る〈それ〉は、眠りを妨げられるのが嫌いだった。猫であれ、鳥であれ、犬であれ、人間であろうとも。…悪くはないけど、あまり面白いとは思えない。★★☆☆☆
「乾き(中原涼)」→死んだ妻を娘が目撃した、あの橋の上で。…正統派怪談話。真っ当に書かれているので、実に怖い。★★★☆☆
「川惚れの湯(草上仁)」→温泉のお湯を口に含んだ女性が、その温泉の湯に追いかけられる。奴は潜んでいする。ペットボトルの中に、風呂の湯の中に、水道の水の中に。…文で書くとギャグみたいだが、一種の水の化け物で、かなり怖い作品だ。特に後半のスリルとサスペンスが凄い。そしてラストのオチもかなり良い。★★★★★
「金魚姫(松尾未来)」→バイトから帰ると、家に少女がいた。その少女は全身が水に濡れて。…タイトルから大体の見当がつくと思うが、某童話そのまま。だが最後にそれなりのオチがあるかと思えば、まったくなかった。単なるパクリかよ。なんだかなぁ。まぁ悪くはないけど。★★★☆☆
「月の庭(早見裕司)」→憧れの先生がもうすぐいなくなってしまう。子供たちはある計画を立てる。…「子供は怖い」って言う話。あまり新鮮味はない。イマイチ。★★★☆☆
「FAERIETAILS(村山潤一)」→水の中で、入水自殺者を見ている二人。…って、それだけかよ。★★☆☆☆
「溺れた金魚(山田正紀)」→盛りを過ぎたラジオのパーソナリティーの前に、嘗てのディレクターが現れる。…如何にも山田正紀らしい、過ぎ去りし時を悲しむ哀愁の作品だ。以前読んだ同作家の「アフロディーテ」に近い印象がする。そしてラストは「ミステリーゾーン」的。その辺りのアンバランスさは面白い。★★★☆☆
「断章(皆川博子)」→数本のショートショート。こう言う作品はなんと言って良いのか。★★☆☆☆
「蟷螂の月(菅浩江)」→沼のほとり、一条の月の光、側にカマキリ。その風景が私の頭の中に棲んでいる。…一種の幻想談。風景の描写は美しいが、こう言う作品は苦手だな。★★☆☆☆
「Mess(ヒロモト森一)」→これだけ、何故かコミック。人魚伝説を基にしたSFだが、悪くはない。★★★☆☆
「安珠の水(津原奉水)」→文章が支離滅裂で、一体何を書いているのかさえ、よく分からない。しかも、やたらと句読点が多く、実に読みにくい。これはもう、作品の出来不出来以前の問題だ。★☆☆☆☆
「還ってくる―(篠田真由美)」→妻になるべき女性を殺された私は、彼女が生前望んでいたヴェネツィアの近くの島にやってきた。そこで開催されるカーニバルを見るために。…さすがはゴシック小説の大家だけあって、他の作家とは違う西洋怪談になっている。どことなくクトゥルー神話を思い出させ、スチュアート・ゴードン辺りがやりそうなホラーだ。★★★☆☆
「魚石譚(南條竹則)」→石垣の中に光る石を見つけた。これは古来より伝わる魚が石の中に住む魚石ではないか。だが掘り出すと。…中国の伝説を元にした幻想談かと思ったら、落語のような話だった。まぁ悪くはないけど、…ねぇ。★★★☆☆
「留奈(江坂遊)」→幽霊屋敷といわれる岬の朽ち果てた洋館で、二人の男が留奈と言う女性を待っていた。やがて現れた留奈は光り輝き、水滴を垂らしていた。…なんか、小説の冒頭だけを読んだだけって感じ。ひどく中途半端。★★☆☆☆
「ウォーター・ミュージック(奥田哲也)」→スランプ状態のミュージシャンがある日、素晴らしい音楽と出会う。彼はその演奏をしている男が住む島に向かうが。…これって、ホラー?。確かに最後にホラー的な描写はあるものの、ほとんど普通の人間ドラマなんですが。★★☆☆☆
「水の牢獄(森真沙子)」→学友が海で死んだ。私はすぐに彼の葬儀へ駆けつける。そして27年前に交わした約束を思い出す。…これはホラーじゃない。大林宣彦あたりが映画化しそうな、胸キュンの青春ものだ。★★★☆☆
「ほえる鮫(井上雅彦)」→水族館での話。こう言う話は苦手だなぁ。★☆☆☆☆
「海の鳴る宿(竹河聖)」→失恋したため、私は海の見えるひなびた村にやってきた。その村にあった民宿に泊まるが海が見えない。私は宿の主人に無理を言って、海が見える別館に泊まるが。…だ・か・ら、宿の主人が渋る部屋には、絶対泊まるべきではないのだ(現実もそうだよ)。しかし、怖い。収録されている話の中で、一番怖い話だ。マジで夜に読まないほうが良い。★★★★★
「水妖記(倉阪鬼一郎)」→世界中で水位が上がり、寒波が襲い、知性のある怪魚が現れる、と言う終末SF。…なのだが、それを日記と俳句で語っているところが異色。かなり面白い話なので、長編、少なくとも中編だったらなぁ…っと残念に思った。★★★★☆
「水の記憶(菊地秀行)」→主婦たちが発狂し、凶行に及ぶ。そして現場にはいつも同じ帽子が。…後半無駄にスケールが大きくなるが、あまり面白いとは思えない。★★☆☆☆
「Zodiac and Water Snake(ヴィヴィアン佐藤)」→絵物語。評価不能。★☆☆☆☆
総評:お奨めは「水虎論」、「川惚れの湯」、「海の鳴る宿」の三つ。「貯水槽」や「水妖記」も結構良い。こう言うアンソロジーって、当たり外れがあるけど、色々なタイプの作品を読めるからイイよねぇ。
ところで知らない人もいると思うので、「異形コレクション」の解説をする。「異形コレクション」とは、井上雅彦が監修した「闇を愛する皆様」で始まるホラーアンソロジー。現在までに42巻を数え、さらに続刊中。以下は、その詳細。
I:ラブ・フリーク
II:侵略!
III:変身
IV:悪魔の発明
V:水妖
VI:屍者の行進
VII:チャイルド
VIII:月の物語
IX:グランドホテル
X:時間怪談
XI:トロピカル
XII:GOD
XIII:俳優
XIV:世紀末サーカス
XV:宇宙生物ゾーン
XVI:帰還
XVII:ロボットの夜
XVIII:幽霊船
XIX:夢魔
XX:玩具館
XXI:マスカレード
XXII:恐怖症
XXIII:キネマ・キネマ
XXIV:酒の夜語り
XXV:獣人
XXVI:夏のグランドホテル
XXVII:教室
XXVIII:アジアン怪綺
XXIX:黒い遊園地
XXX:蒐集家(コレクター)
XXXI:妖女
XXXII:魔地図
XXXIII:オバケヤシキ
XXXIV:アート偏愛
XXXV:闇電話
XXXVI:進化論
番外編:異形コレクション讀本
XXXVII:伯爵の血族 紅ノ章
XXXVIII:心霊理論
XXXIX:ひとにぎりの異形
XL:未来妖怪
XLI:京都宵
1巻から15巻までは廣済堂、16巻からは光文社より刊行されている。それ以外で番外編として、「異形コレクション・綺賓館(カッパノベルス)」の全4巻(十月のカーニヴァル、雪女のキス、桜憑き、人魚の血)、「異形ミュージアム(徳間文庫)」の全2巻(時間怪談傑作選「妖魔ヶ刻」、メタ怪談傑作選「物語の魔の物語」)、「異形アンソロジー タロット・ボックス(角川ホラー文庫)」の全3巻(塔の物語、魔術師、吊るされた男)などがある。
ちなみに廣済堂版はすべて絶版、光文社版も初期の部分は入手不可能。私が持っているのは、「水妖」と「屍者の行進」(他にも数冊買った記憶があるのだが、見つからなかった)。最近、出版社を変えて再開されたと知って、ばたばたと数冊購入。購入したのは「魔地図」、「オバケヤシキ」、「伯爵の血族 紅ノ章」、「心霊理論」、「京都宵」。あと「幽霊船」、「夢魔」、「キネマ・キネマ」も欲しいのだが、入手できない(古本屋で探すか)。購入した分は、近いうちに感想を書きます。