真夜中のティータイム
気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。
「春のそよ風」亭の主人が、訪れる旅人たちから冒険談を聞くようになってから、もうかなりの年月が経った。
そのため、その数はもうかなりのものになっていた。
それらの話の中で、何度も登場する名前がいくつかあった。
そのひとつが、魔法使いサラの名前である。
主人が知る彼女の冒険談だけでも、すでに両の手の指以上はあった。
それだけ多くの冒険をしてきた魔法使いなら、一度は会ってみたいと思うのだが、それは未だに叶わなかった。
さて、その数多い彼女の冒険談の中で、以下に述べる話はたぶん彼女の最初の冒険談だろうと思われる。
話は少し暖かい風の吹くある朝に始まる…。
チュン、チュン、チュン…。
朝の訪れを告げる小鳥の声が聞こえた。
「もう、朝か」
少女はゆっくりと目を開けて、呟いた。
ここは森の中に立っている山小屋の中だ。
少女の名前はサラ、この家でおばあちゃんと二人暮しをしている。
年の頃は14~5歳だろうか?
まだ、少女と言っても良い歳だ。
栗色の髪は腰まで伸び、少し色の白い肌が少女に儚げな印象を持たせていた。
…と同時に、きりっと引き締まった口元は彼女の意思の強さを物語っていた。
サラは布団から抜け出すと、素早く普段着に着替えた。
上はシャツ、下は膝下まである少し長めのスカート。
質素なものではあるが、森の中で生活に対応できるほど丈夫な作りである。
着替え終わったサラが台所に向かうと、何とも良い匂いがしてきた。
「今日の朝食は、おばあちゃん特製のスープね」
サラの顔に微笑みが浮かぶ。
「おはよう、おばあちゃん」
「おはよう、サラ」
返事をしたのは、年老いた老婆だった。
その老婆は、既に70歳を超えていると思われる。
手や顔に刻まれた皺が、その年齢を表している。
ただ老婆の顔の作りは決して悪くなく、いや、むしろ昔はきっと美人であったのだろうと思われる。
そして、皺に刻まれた顔の奥からのぞく黒い瞳。
その瞳は暖かな光を放っており、その光はサラに注がれていた。
その表情から、この老婆がサラのことを大切に思っている事が苦もなく想像できる。
席に着いたサラは、さっそくおばあちゃん特製のスープを飲みだした。
「相変わらず、おばあちゃんのスープは美味しいわ」
「おや、おや、お世辞を言っても何も出ませんよ」
「お世辞じゃないわ、本当のことよ」
サラは少し頬を膨らませて、そう言った。
朝食が終わりかけたとき、おばあちゃんが口を開いた。
「サラ、お使いを頼まれてくれない?、少し切れかかった薬草があるので、取ってきて欲しいの」
実はサラのおばあちゃんは魔女だ。
…っと言っても人に害をなす悪しき魔女ではない。
薬草から薬を作り、人々の病気や怪我の治療をしている“賢い女”と呼ばれる女性だ。
そのため、皆からの信頼は厚く、この山小屋から少し歩いたところにある小さな村から、その薬を求めて村人がよく訪れる。
「いいわよ」
サラはすぐに答えた。
「必要なものはこの紙に書いてあるわ。そうねぇ、この近くなら、世界樹の近くにあると思うわ」
「…」
サラは一瞬、言葉に詰まった。
「どうしたの?」
おばあちゃんはサラの態度を不審に思ったらしい。
「なんでもない、分かったわ」
サラはすぐに明るく取り繕ったが、おばあちゃんは何か不安を感じたようだった。
「第2話:闇からの声 #2」へつづく