真夜中のティータイム
気になった事を気ままに書いていくブログです。 映画、アニメ、小説(SF、ミステリー、ファンタジー)、 ゲーム(主にRPG、格ゲー)の話題が中心になると思われます。
「どうやら、道を間違えたようだ」
アルトゥールは愛馬に乗り、湿地帯を進んでいた。
水分の多い土がぴちゃ、ぴちゃと跳ね、前進し難い。
また異様に湿度が高く、不快だった。
「何とか早く、この湿地帯を抜け出さなければ」
先ほどから何度も自分に言い聞かせてきた言葉だが、未だにこの湿地帯から抜ける方法が分からない。
それどころか、どんよりと曇った天候のため、方向さえ掴めなくなっていた。
しかも更に悪いことに、段々と周りが暗くなり始めていた。
どうやら、夕刻が近づいているらしい。
日が完全に落ちてしまうと、まったく身動きが取れなくなってしまう。
それでなくとも周りに人家もなく、明かりもないのに。
しばらく進むと、人間一人が何とか腰を下ろすことができる小さな岩場があった。
アルトゥールは遂に観念して、そこで一晩夜を明かすことにした。
しばらく腰を下ろして、周りを見る。
正面に沼がある。
どのくらいの深さがあるのか、見当もつかない。
まるで、すべての物を飲み込んでしまいそうな沼だ。
そのとき、近くで何かキラッとする物が目に入ってきた。
視線をその場所へ移してみると、それは金属のようだった。
さらに手に取り、間近で調べてみる。
指輪だ。
内側には、何か字が彫ってあった。
水で洗うと、文字がはっきりしてきた。
そこには、「エリクからリアへ」と書いてあった。
「恋人から恋人へ送ったものだろうか。しかし、それが何故こんな場所に」
やがて陽が落ち、周りは闇に包まれる。
近くにある出来るだけ乾燥した木を集め、火をつける。
そして愛馬から寝袋を下ろし、それに包まり横になった。
何の物音もしない静寂の中、聞こえるのはパチパチという火の音と、愛馬の息づかいだけ。
アルトゥールは目を閉じた。
それからどれだけ時間がたったであろう。
愛馬の様子の変化に、アルトゥールは目を覚ました。
普段は大人しい愛馬が荒い息をさせ、落ち着かない。
異変を察ししたアルトゥールは、神経を集中させる。
すると何かが動く気配を感じた。
目の前…まっすぐのところ。
確か、沼があったところだ。
周りはすでに闇の中、何も見えるはずがない。
ただその闇で何かがうごめいているように感じる。
そして、その何かの殺意も。
「いる」
アルトゥールは今、確信した。
「第1話:嘆きの沼の黒い影 #2」へつづく